ロマンス洋書の英語メモ

ロマンス小説の洋書を読んで気づいたこと、考えたこと、調べたことをつらつらと

【ブックレビュー】宮脇孝雄の実践翻訳ゼミナール

 

タイトルからすると海外小説の翻訳(志望)者に向けての本なのですが、翻訳テクニック的なところを別にすれば、洋書読みにもめちゃめちゃ有用だと思いました。

しかも第一章がバーバラ・カートランド!ロマンスですよ!

ヒストリカルの短編を題材にしながら、地の文が誰の視点かを読み取るやり方が丁寧に説明されています。

この視点(Point of View: POV)の見分け方については、我流で一応の感覚はつかんだ(つもりである)ものの、ほんとうにこれでいいのかな、どこかにきちんとした解説があるんじゃないかと思って探していました。

名作や古典の物語を題材にした読解本も何冊か読んだけれど(おそらく文法や読解にポイントが置かれているため)ここまではっきりと説明されているものはなかったように思います。

この本で「客観小説」と読んでいるスタイルは19世紀後半に出てきたということなので、古い小説が題材だとそもそも扱われないのかもしれません。

この本によると、「小説の文法」があって、それを知らないとうまく翻訳できないとのこと。海外小説が翻訳されるときには日本語読者向けにうまく処理されている(はず)なので、英語は理解できるのに洋書が読みにくいと感じる場合、「小説の文法」がわかっていないためにつまづいているのかもしれません。

あと、コラム(「翻訳指南」や「補講」)もおもしろいです。第一章の題材がヒストリカルなので、貴族のランクや呼びかけ方がまとめられていたり*1

題材の読みは後半に行くにつれてだんだん複雑になっていくので*2、ロマンスやコージーミステリーあたりが読めたらいいなら、第一章と、残りはコラムのところだけ拾い読みでじゅうぶん得られるものがあると思います。

POV問題に戻ると、私の読書経験では、POVの切り替えがわかりやすいのはSecret identity trope(身元偽装もの)。たとえばヒーローが偽名を名乗っているとして、地の文に本名が使われているところはヒーローのPOV(ヒロインは本名を知らないから)、偽名が使われているところはヒロインのPOVになる、といった具合。

ヒストリカルの場合は、親密になるまではファーストネームで呼び合うことをしないので(家族を除く)、私は主にそのへんを目安にしています。ロマンスが進んで地の文に相手のファーストネームがまぎれるようになったら「きたきた😎」という気持ちになりますね。

*1:ちょっと違うかな、と思うところもあったけど…。

*2:ミステリーが題材のところはネタバレしているので注意。